連載コラム
「TRIZ創始者のおしえ」

TRIZ創始者のG.アルトシュラーの講義映像と著作を紐解き、
彼がどのような思想や考えをもってTRIZの理論や体系を生み出したか、
それをどう語り伝えていたかを紹介します

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TRIZ創始者のおしえ(第6回) 技術的矛盾と発明原理 その2

笠井肇


こんにちは、株式会社アイデアで講師を担当している笠井です。


前回は、TRIZを構成している発想ツールのうち最もポピュラーな「発明原理」と、それを効率よく使うための「(技術的矛盾解決)マトリックス」について、概要を説明しました。


  TRIZ創始者のおしえ(第5回) 技術的矛盾と発明原理 | 株式会社アイデア TRIZの発想ツールとしてよく知られている「発明原理」について、TRIZの創始者のアルトシュラーがどのように説明していたかを解説します。 株式会社アイデア



今回は、それらを実際の技術的矛盾に対してどのように適用したらよいか、ということを、既に話題にしたフィルタの問題を題材にして、学生たちに考えさせるところから始まります。


これは、『TRIZ創始者のおしえ(第2回)』でアルトシュラーが提示した、「化学反応炉から排出される高温ガスが大量の埃を含んでいる。その埃を除去するために高性能金属フィルタを使っているが、すぐに埃でフィルタの目が詰まってしまう」という問題です。


  TRIZ創始者のおしえ(第2回) 試行錯誤からの脱却 その1 | 株式会社アイデア TRIZの創始者のアルトシュラーは、発明家は「試行錯誤法」からの脱却が必要だと説きます。では試行錯誤法とは、具体的にどのような思考法なのでしょうか? 株式会社アイデア



発明原理による技術的矛盾の解決方法


アルトシュラー(以下、Aとする) 「それでは実際に、フィルタの問題を例にして「技術的矛盾」を一般的な特性で定義してみよう。そして対立する特性を「マトリックス」にあてはめて「発明原理」を引き出してみよう。どうだろうか?」


学生(以下、S1、S2、・・・とする) 「先生、なぜ「技術的矛盾」なのですか? これは「物理的矛盾」ではありませんか? なぜなら、フィルタの細孔は大きくなければならないし、同時に小さくなければならないということは明白なのですから」 (※注)


  • ※注 :TRIZでいう「物理的矛盾」とは、ここで学生が発言しているように、特性のあるひとつの属性についてその要求が対立する場合を指す。


何かを改善しようとすると、何かが悪化してしまう。
対立する特性が何かを考えて、発明原理を使って解決ししてみて欲しい


A 「今は、この問題を「技術的矛盾」と捉えて、「マトリックス」のデータを使って解いてほしいのだ。


パガニーニ(イタリアのヴァイオリン奏者で、超絶技巧奏者として名高い)は、ヴァイオリンのたった一つの弦を使うだけで、一曲すべての演奏を行った。それは、彼が壊れたヴァイオリンを取り替えられなかったからではない。彼が一つの弦だけで演奏できる腕前と才能を持っていたからできたことだ。同じことを君たちにも当てはめることができる。


この問題を、先ずは「マトリックス」から引き出した「発明原理」を使って解決してほしいのだ」


アルトシュラーと学生たち



A 「さて、私たちは、何を改善しようとしているのだろうか?」


S1 「多分、そのフィルタの寿命・・・?」


A 「そう、正しいね!」


S2 「そのためには、多くのフィルタを互いの上に重ねる方法が考えられます」


A 「その解決法だと、何を失うだろうか?」


S3 「単純さ・・・?」


A 「複雑さが増してしまう、ということだね? とても良いね!


私たちは今「技術的矛盾」を手にしている。つまり、“作用の連続性”は“解決の複雑さ”と対立しているということだ。手元の「マトリックス」を見てもらいたい。そこには、どんな「発明原理」が載っているかね?」


S2 「28番で、“強磁性粒子を有する場を利用する”という原理です」


A 「なるほど、それはとても良いね!

この発明原理は、フィルタの寿命に対する制御の解に完全に一致している。

では、その次に載っている「発明原理」は何かな?」


S4 「“逆に行う”という原理です」


A 「そうだね、正しいね! フィルタが埃を捕らえる仕組みを“逆さまの原理”で行いなさい、という指示だとしたら、どういう方法が考えられるかね?」


S4 「例えば、今はフィルタの内側で埃を捕らえているならば、逆にフィルタの外側で埃を捕らえさせる構造にする。そして、磁力をフィルタの内側に設けて、捕らえた埃を取り除くということができるかもしれませんね?」


A 「そういうことだ。今、君が内側と外側を切り替えるというアイデアを出したが、この金属フィルタに関する特許はまさにその考え方のもとに認められたのだ」


発明原理



効率よく解決すること


A 「ところで君は、そのアイデアを思いつくのに、どれだけの時間を費やしたかね?」


S4 「1分間から3分間でしょうか・・・」


A 「そうだね! しかし実際には、この問題が解決され、特許を取得するのには7年間かかっていたのだ。ということは、その解決策を着想するまでに少なくとも数年間はかかっていたはずだ。


そこで考えてほしいのだが、この問題が解決されるまでに数年間かかることと、同じ問題を君たちが数分間で、数時間で、あるいは数日間という短時間で解決できるということと、そこに一体どんな違いがあるのだろうか? 重要なのは、年月が失われない、ということではないだろうか」


「発明原理」をうまく使うことによって、時間を無駄に使わないで効率よく難しい問題を解決できることを理解してほしい


A 「君たちは、年月が失われた多くの例があることを知っていると思う。ここに貼り出した全ての発明は、長い年月をかけて解決、特許化されたものだ。


ひとつのとても優れた発明の例を示そう。その課題は大きな岩石を砕くことだった。この岩石に試錐孔が開けられて、液体が注入された。初めは液体をただ注入してその圧力で砕くだけだったが、後に脈動作用で液体を送り込むことが可能であると立証された。


しかし、この段階ではまだ材料を共振させるという作用は考慮されず、圧縮ポンプで与えられる衝撃の脈動作用が使われただけだった。“共振”の言葉を考えることすらなかったのだ。そして時間が過ぎていった。その後に、共振の作用を取り入れて粉砕の威力が増した方法が特許として認められた。


共振について考慮したり、自然の振動を利用してみたりするのに、どのくらいの時間がかかったと思う?」


S2 「おそらく、1年はかかっていないと思います」


A 「いやいや、1年以上、・・・6年! 問題が解決し、特許になるまでに6年もかかってしまったということだ。

どうだろう、「発明原理」をうまく使うことによって、時間を無駄に使わないで効率よく難しい問題を解決できることを理解してもらえただろうか?」




いかがでしたか? 今回は、TRIZで最もポピュラーな「発明原理」の使い方を詳しく紹介いたしました。そして最後に、効率よく解決することの大切さを述べています。


私は現在、さまざまな企業でTRIZによる問題解決のお手伝いをしています。そこでは、難しい問題を解決できたか? と同時に、いかに短時間でその解に行き着いたか? に着目して、お客様にTRIZを評価していただいています。


それは、アルトシュラーが重視している「効率よく解決する」ことが、現在に継承されているということなのかもしれません。


次回は再びARIZに戻り、心理的惰性とその克服に向けた別のアプローチ方法を説明して、講義のまとめに入ります。


笠井@IDEA



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笠井 肇
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