「TRIZ創始者のおしえ(第7回) ~ 心理的要素のコントロール ~」(笠井)

「TRIZ創始者のおしえ(第7回) ~ 心理的要素のコントロール ~」(笠井)

 こんにちは、株式会社アイデアの笠井です。

 前回は、アルトシュラーが学生たちに「発明原理」の詳しい使い方を指導し、それと同時に、難しい問題を効率よく解決することの大切さを伝えていました。
 今回は、皆さんに親しまれている「発明原理」も「マトリックス」も、問題解決のための手段であって、より大切なのは問題の本質をしっかり分析することだという考えを、再びARIZに戻って伝えようとしています。それは、奇妙な逸話から始まります。

『専門用語という箍(たが)』

アルトシュラー(以下、Aとする) 「インフェルト(ポーランドの物理学者)の自叙伝ノートに面白いエピソードが残されている。
 ある日、友人のカピッツァ(ロシアの物理学者)がインフェルトとランダウ(ロシアの物理学者)の二人に次のような問題を出した。“犬の尻尾にフライパンが取り付けられている。フライパンが地面に当たると音が鳴るが、それを聞こえないようにさせるためには、犬はどのくらいの速度で走らなければならないか”というものだ。インフェルトはノートに、ランダウと自分は解決策について長い時間考えた、と書いている。そして、彼らが苦労しているのに同情したカピッツァは答えを与えた。それはとても奇妙なもので、“犬はじっとしていなければならない!”というものだったのだ」

A 「なぜそんな簡単な問題を解くことが難しかったのだろうか?」

学生(以下、S1S2、・・・とする) 「・・・」

A 「その理由は、問題に“速度”という言葉が使われていたからだ。我々の心の中では、“速度”というのは動きを意味している。そのために彼らは、犬が走る速さと動きの範囲で答えを探したのだ。この場合、答えは速さでも動きでもない。ARIZ(第四回コラム参照)には、専門用語の箍(たが)を外すために特別に作られたステップがある。技術的な言葉はしばしば私たちを強制的に、特定の方向・特定の解決法に向かわせてしまう。したがって、専門用語は「心理的な弾み」(※注)のキャリアであると言っても過言ではないだろう」

※注 「心理的な弾み」 :「心理的な障壁」・「心理的惰性」(第三回コラム参照)と同義。

S2 「もし、ARIZが示す表によって問題を簡単に解決できるなら、私たちはそれをコピーして研究所や科学機関などのいたるところに貼っておくべきではないでしょうか? そうすれば技術者たちは、問題に直面したらすぐにそれを見て答えのヒントを得ることができます」

A 「それはすばらしいことだね? しかし、仮に数学の公式がいたるところに貼ってあったとしてみよう。それを見ることによって数学的に考える力が育つだろうか? ARIZに組み込まれているステップや表は、単なる道具に過ぎないと考えてほしい。君たちはそれらの道具をどう使うかを学んでゆかなければなければならないのだ。
 例えば、ここにもう一つの問題があるので考えてみよう。鋼球が入ったガラス管を想定してもらいたい。ガラス管は垂直に立っていて、中は真空状態だ。鋼球は管の上から落下している。そして電気接点がガラス管の壁に取り付けられている。鋼球が落下する時、その接点に触れて電気回路が閉じる仕組みになっている。
 さて、ここで何が間違っているだろうか? 回路を閉じるには、鋼球が接点に接している必要があるね? しかし、制限なく落下するためには、鋼球は接点に触れるべきではないということだ。ここに物理的な矛盾が存在する」

A 「もし君たちがARIZの表を見るならば、それは君たちに鋼球の物理的な状態を変えるように告げるだろう」

S1 「球体を液体金属で作ったらどうでしょう、例えば水銀のような・・・」

S2 「ガラス管を電解液で満たして、気泡をポンプで送り込む、とか・・・」

A 「ほらほら、君たちは代替物を選り分け始めている!」

『心理的惰性の除去法』

A 「それでは、この鋼球がどのように見えるか、今から示してみよう。君たち5人はこちらに出てきてくれないか? 君たち5人で1つの鋼球になったつもりで、しっかり手をつないで鋼球の転がりを演じてもらいたいのだ。そして、他にあともう6人出てきてくれるかな? 2人ずつ向き合って等間隔に並んでもらいたい。これは、ガラス管と電気接点のつもりだ。鋼球はこの狭い通路を通っていかなければならない。そして通路は鋼球の通過を阻まなければならない」

=== 5人は手をつないで通路を通っていった。そして、3組のペアは自然に彼らの両端をつかんだ。そのすべては出された問題と同じようだった。 ===

A 「鋼球の動きがなくなるので、それは鋼球が詰まった状態といえるだろう。それでは次に、鋼球の5人は、互いに軽く、優しく手をつないでもう一度やってごらん。今度は、この右の絵のようになるはずだ」

=== 5人は最初のように、しかし軽く手をつないで通路を通っていった。そして、3組のペアは同じように彼らをつかんだが、5人はつないだ手を放すことによって、間の3人は通り抜けることができた。 ===

A 「さて、このように私たちは特別の方法で考えることができる。つまり対象とするものが、小さな人(※注)、小さな動物、またはハエの群れ、あるいは雲のような細かいものの集まりで作られていると考えてみることだ。これは、ものの形というものは固定していないということを感じる能力を与えてくれる。物質は変えられたり分けられたり、さまざまな形をとることができるのだ。それは、私たちが必要とするままに振る舞うだろう。私たちは、このような考え方を使って “心理的惰性”を取り除くことができるのだ」

※注 「小さな人」 :この一連の“小さなもの”は、現在TRIZのツールとして知られている“Smart Little People(賢い小人たち)”を指していると考えられます。これは一種の擬人法です。問題が生じているのは、そこに存在する物質が何かしらの振る舞いをしているからであると考え、物質を“賢い小人たち”に置き換えて解決策を講じるというものです。

 いかがでしたか? アルトシュラーのおしえは、難しい問題に直面したときの基本的な考え方に力点が置かれていたようです。ARIZのプロセスでも、発明原理や分離の原則、発明標準解などのツールを使う前に、問題の定義をしっかり行うことを推奨しています。
 次回で、いよいよアルトシュラーの講義はまとめに入ります。

笠井@IDEA

連載コラム「TRIZ創始者のおしえ」

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